7年間市役所に勤めていた。文化財の担当が3年、広報に3年、企画に1年。
仕事のできる職員だったとは言えない。特に1、2年目は毎日毎日先輩に怒られていた。よく泣いた。いろいろあったけれど感謝している。
その時代のことで今になって、あれは役に立つな、やっておいてよかったなと、しみじみ思うことがある。もちろん、広い意味で言えばすべてが現在につながっているのだが、もっと具体的に役に立っていることもある。とりあえず、2つ。
①庶務関係のこと。
文化財係のとき、庶務っぽいことを何でもかんでもやっていた。3年いて毎年担当が変わったので、結果的に何でもかんでも、になった。
例えば契約課に回す書類作成。委託契約の書類でも、指名競争入札とか、一者随意契約とかいろいろパターンがある。
出張命令の書類作成と旅費の支払い手続き。
文化財の修理などの補助金を出す決裁、書類のやりとり、支払い手続き。発掘調査とか、市でやる事業について、国庫補助金の申請や請求の手続き。
史跡の清掃とか、壊れた文化財説明板の修繕の、見積もり、依頼、書類作成。
書類に不備があると会計課から突き返される。自分が直して済むものならいいが、例えば分割支払いの契約をしたのに、一括払いで契約すべきじゃないかと返ってきたことがあった。契約先の人が困ってしまうので、会計の手引き書を読んで理論武装し、3年目の私と庶務課の新人さんと二人、全庁が恐れる会計課の係長に闘いに行った。私が話し終わると、係長は「でも○○だよ」と指摘した後、判を押してくれた。何が起こったのかよくわからず、帰り道で足が震えた。
今、その経験があるからできる質問がある。
「それは業務委託という形になるんですか、指定管理者ですか」「何費で支払ったんですか?」「ああ、実行委員会形式ですか」「一者随契ができるんですね、どういう理由になるんですか」「コンペですか」
自治体関係の人に話を聞くことは多い。相手はそんな言葉は使わないから、こちらから聞く。それで懐に飛び込む。相手の苦労を想像して、聞いてみる。
②文化財全般のこと。
文化財に関することも何でもかんでもやった。1年目の主担当は埋蔵文化財だったが、ある日、市のホームページにある文化財の紹介をどうにかするようにと言われた。文章をやさしく書き直すのに、学芸員資格を取ったにもかかわらず文学が専門の私は基礎知識が全然なく、かなりの勉強が必要になった。
①でも述べたように庶務っぽいことを何でもかんでもやっていたので、それを通していろいろな文化財のことを知ることになった。さらに、2年目以降は文化財指定や修理の担当になり、鵜飼の調査の事務もやっていたので、絵画、彫刻、建造物、天然記念物、有形無形の民俗文化財、何でもかかわることになった。史跡の清掃ボランティアにも行った。文化的景観の選定に向けて調査しているところだったし、歴史まちづくり法の認定も目指していた。重要伝統的建造物群保存地区は市内になく、日本遺産は退職後に制度ができたが、どちらも現在の仕事でかなりしっかり扱うことになって勉強した。
そんなこんなで文化財についてはどのジャンルでも、普通の人よりほんの少しは詳しくなった。もちろん、専門家のように深くはわからないけれど、文化財の担当をやっていました、と、注釈なしに言える。
文化財の話は観光やまちづくりの話でも出てくるし、建設関係でも出てくる。まちの誇りにもなるものだ。その知識はかなりあちこちで役に立っている。
何でも手を出すので、その仕事は他の人に回すように、とか、それはそんなに力を入れなくてもいいんじゃない、と言われたこともある。でも今になってみれば、何でもやっておいてよかった。本当にありがたい。同業の他の人がなかなかできない経験ができた。そしてもうそんな経験は二度とできない。
役に立っていること、もう少しある。広報のときの話とかは、また。