観客の皆さんが特にうんうんと頷いていたのが、首結いの話。指一本分緩く結ぶ、そうすることで小さい魚は喉を通って食べられる、という説明に、そうそう、鵜をいじめているんじゃないんだよね、と思っていらっしゃったのかもしれない。
足立陽一郎鵜匠の説明が最初、鵜が登場する前に5分くらい続いていたけれど、観客の皆さんの集中力は途切れずに、興味深そうに聞いていた。2階、3階からもたくさんの人が見ている。
そして鵜が登場。首結いを鵜匠と一緒にされていた方は、慣れていたから船頭さんだろうか。
そう言えばこんなに間近で鵜が鮎を捕るのを見る機会はなかなかない、と、鵜が近くまで泳いでくるのを見て気づいた。本物の鵜飼では、もっと遠いし暗い。これはこれで貴重な機会だ。岐阜でも長良川うかいミュージアムで鵜飼の実演をやる意味がわかる。
鵜匠の体験ということで、4、5年生くらいの男の子が屋号入りの法被を着せてもらって、手縄を握る。そういえば本物の鵜匠も子どものころ、一番最初は鵜を一羽握らせてもらったと聞いた。鵜はプールに泳がせた鮎を全て捕りきった。
最後に子ども限定で鵜匠と記念撮影。列ができていた。近づいてみると、私以外にも鵜に釘付けで写真を撮っている人もいた。
終わった後、勇気を出して足立鵜匠に話しかけてみる。やはり、東京に連れてきた鵜は人前に慣れているベテランの子らしい。「鵜飼に連れて行ったらたくさん捕るというわけじゃない。鵜飼のときにたくさん捕る鵜もいるし、そうじゃないのもいる。人間と同じ。個性だよね」と、はきはきとお話ししてくださった。そして、コンクリートの上に鵜が糞をしたのを、雑巾タオルでさっと拭っていた。
この日のイベントのタイトル、東京鵜飼釣り。
刃物のないPRムービー「もしものハナシ」など、この数年、関市のシティプロモーションは攻めている。オズマピーアールさんが関わっているらしい。今年は鵜飼で何か、ということなのだろう。
スカイツリーの下、東京ソラマチに着くとポスターが。
インスタグラムといえばこの日の公式ハッシュタグの一つ「#鵜匠がイケメンすぎてつらい」の攻めっぷりにびっくりしたけれど、お会いするとそのフレーズに納得感があった。お年を重ねてもダンディー。
スカイツリーの地元墨田区にある、うまい棒をつくる株式会社やおきんとコラボして、あの、うまい棒のパッケージのキャラが鵜匠のコスプレ。
この、紐を引くと当たりとか外れとか書いてある、というのがこの日の「鵜飼釣り」。運のよい人には、この日限定の「鵜まい棒」を配布。費用だけでなく手間もかけた仕掛けは機能していたように感じた。鵜まい棒、欲しかったので恥を忍んで子どもに交じって「鵜飼釣り」に並んでみたが、はずれ。日頃の行いが…。
スタッフの方も多く、会場は配慮が行き届いていた。
「鵜飼釣り」が造語であることに気付かない人も多かったかも。何となく本当にありそうで、鵜飼を知らない人には駄洒落だとわからずにスルーされていたかも。インスタグラムを見ていると、やはり誤用している人もいた。
東京の方も鵜飼に興味を持っていたようだ。動物がいること、鵜匠という伝統の職人技の世界で生きている人への興味、そして鵜匠の言うことをちゃんと聞くところ、敏捷に鮎を捕るところなんかが惹かれているポイントのように感じた。そして吐き出すところは「おお〜」と声が上がっていた。確かに、動物や敏捷性や言うことを聞く、というのは他にもあるかもしれないが、吐き出すのは他にない。
小さい子どもを連れた家族連れ、高校生らしき女子2人組、上品そうな中高年女性、カメラ好きのシニア男性、など、なかなか多様な人が見ていた。
足立鵜匠は実演の最後に「ぜひ、小瀬に」と。「漆黒の闇の中で漁をします。何もない田舎ですけど、最近は朝ドラの、糸電話の場面の舞台にもなりました」と。そう、「半分、青い。」、関市でもロケをしていた。
観光等のPRブースもあった。小瀬鵜飼、関市、がどれくらい伝わったかわからないけれど、鵜飼、はなんとなく見た人の心に伝わったと思う。鵜だけでなく、その道を極めてきた鵜匠にも、本物感があった。佇まいに説得力があった。だからこそ東京の皆さんもあんなに釘付けだったのだと思う。
長良川でにも見に来てもらえるといいな。自然の中で見るのはやっぱり都会とは違う。
実は小瀬鵜飼を見たことがない。なんとか、今年は。