つながるまちは面白い。HUB GUJO。

郡上が、面白いことになっている。

岐阜県郡上市。その中心地の八幡町は郡上おどりでも知られ、宗祇水などまちなかで清流の恵みを感じられる。中心部は重要伝統的建造物群保存地区に登録されていて、古くからの町屋が並ぶ。
背後に山が迫り、観光客も歩くけれど、静かで美しいまち。

その郡上八幡のまちに、新しい店がいくつも目に付く。



郡上で何が起こっているのか。
新しい施設の一つ、「HUB GUJO」で話を聞いてみた。

川のほとりに、最新設備。

HUB GUJOは古民家の並ぶまちの中心部から10分ほど歩いたところ、吉田川のほとりにあるシェアオフィス、コワーキングスペースだ。以前は紡績工場、その後地ビールのレストランだった建物を使っている。

中にはシェアオフィスとして使えるスペースが5つ、そしてコワーキングスペース、ビデオ会議用のスペース、コミュニティスペースなどがある。

シェアオフィスには、テレビ会議システムなどを提供する(株)ブイキューブ、岐阜大学教授、和紙やその加工商品などの家田紙工(株)などが入居している。一部屋をさらに二者でシェアしているところもある。

家田紙工(株)ではシルクスクリーン印刷の機械を導入。


コワーキングスペースはセキュリティキーがないと開かない。複合機もキーをかざして初めて自分の印刷物が出てくる。

3Dプリンターや非接触スキャナ、ペンタブレットなども設置。ものづくりをする人にとっても最新の機器が整っている。シェアオフィス、コワーキングスペースというとIT系企業や、パソコンで仕事が完結する人が利用するイメージがあった。しかしここではすでにVRの開発企業が入居しており、コワーキングスペースを利用する、小中学生を対象とした「郡上ロボットクラブ」の運営者もこの機器を使っている。コワーキングスペースとシェアオフィスの整備には総務省のふるさとテレワーク推進事業の補助金も活用した。

テレビ会議スペースは会議室のようなつくりになっていて、会議の相手と場所の感じも共有することができる。

つながって生まれたものが、まちへ流れ出す。

HUB GUJO開設の中心となったのは有限会社グルーブーム代表、NPO法人HUB GUJO代表理事の赤塚良成さんだ。

赤塚さんは愛知県名古屋市でソフトウェアの会社を営んでいたが、両親との同居、介護のため、2012年に家族で郡上市に移住した。会社を続けていたが、一人で仕事をしてモチベーションを維持し、頑張り続けるのは大変だと感じていたという。
赤塚さんと前後して郡上に移住し、活動している人もいた。ただ郡上市は2000年に合併したこともあって広く、活動する人どうしのつながりは限られていた。

「身近に頑張っている人がいると自分も頑張れる。一人にならないでみんなで頑張れる場所、そして異業種の人が交流できて新しいことが生まれる場所をつくりたいと考えています」

良成さんの妻でHUB GUJO事務局赤塚裕子さんはそう話す。仲間とリノベーションを進め、2017年にHUB GUJOがオープンした。

現在では6団体がシェアオフィスに入居し、20団体がコワーキングオフィスの会員となっている。
(株)ブイキューブのリモートオフィスでは、静かな空間で仕事がはかどり、効率が2.6倍になったという。

コミュニティスペースでは、定期的にランチ会を開催。

またこれまでに4回、HACK GUJOというアイデアソンも開催した。これをきっかけに生まれたのが「郡上発!水出しコーヒーキット」だ。オーガニック、フェアトレードのコーヒーを扱うスローコーヒーを主宰する、有限会社スロー代表取締役の小澤陽祐さんは、東日本大震災の際にコーヒーにおける水の大切さに気付き、夫人の実家がある郡上市と首都圏を行き来していた。
第2回のHACK GUJOではテーマオーナーとして参加し、学生やデザイナーなどさまざまな人がアイデアを出し合った。そして、三つの水系がある郡上のまちなかで水を汲んで飲み、気に入った水で水出しコーヒーを淹れるアイデアが生まれた。現在、キットはまちのあちこちで販売され、小澤さんは二拠点居住をしている。

他にも赤塚良成さんの企画で、入居企業の家田紙工、郡上八幡のまちなかで手ぬぐい作り体験ができるTakara Gallery Workroomなどとコラボした「郡上おどりうちわ」が生まれたりもしている。

郡上八幡のまちに新しいお店が増えていることについても聞いてみた。

「この数年で、同じようなタイミングでいろいろな動きが起きているんです。「チームまちや」ができて、空き家を紹介してもらいやすくなったことも大きいですね。「ふるさと郡上会」でも、移住希望者に紹介できる移住の先輩が増えたようです」

チームまちや」とは(一財)郡上八幡産業振興公社内にあるチームで、空き家を借り受け、改修して貸し出している。これによって、店舗などに町屋を使いたい人が借りやすくなった。「ふるさと郡上会」とは(一社)郡上・ふるさと定住機構が運営する、都市と郡上との交流、移住をすすめる組織で、移住相談も受け付けている。

赤塚さん一家が移住し、その前後に移住して活動する人々がいた。その人々がお互いにつながる機運ができてきた。それは赤塚さんらのつなごうとする活動のおかげでもあり、HUB GUJOという場ができたからでもある。それによって新しいものも生まれた。そうしたことが発信され、紹介されることで、郡上に惹かれた人がまたここで新しいことを始める。
そうしたことが積み重なって、郡上で新しいことを始める人が増え、それが目に見えるほどになっているのではないだろうか。

まちを内発的に変える場所へ。

赤塚裕子さんは郡上市に移住する前、名古屋市で子育てをしていた。話すのはママ友か勤めていた会社の人くらい。子どもの遊び場は狭い公園で、アパートで子どもが泣きだすと、泣き止むまでずっと気を遣っていた。介護が必要になった義母との同居も考えたが、アパートには2階までのエレベーターがなく、義母が上り下りするのは難しかった。

「名古屋の自宅で介護していたら行き詰まってしまっていたのではないかと思います。ここには山や自然の風景があります」

豊かな自然があり、四季が感じられることは郡上の大きな魅力だと裕子さんは話す。それも、地域によってそれぞれ違う景色がある。子どもは自然の中でのびのびと遊べるようになった。
「近所の方に「子は宝やな」と言われたのがすごく嬉しかったんです。地域の中で大事にされていると感じられました」
ある雪の日、裕子さんは坂道で車を滑らせ脱輪してしまった。困っていると知り合いが通りがかり、仲間を呼んで車をけん引して持ち上げてくれた。

「名古屋にいたら業者さんを呼ぶんでしょうね、でもこんな雪の日に、何時間待ったら来てくれるのかわからない。こんなによかったと思ったことはありません」

裕子さんは移住後、郡上市のケーブルテレビで編集の仕事をしていたが、子育てなども忙しく、限界を感じて退職した。少し時間ができたときに、以前から興味のあった「手仕事」に挑戦してみたいと「郡上手しごと会議」という集まりに参加した。そこでは綿を栽培して収穫し、手で糸を紡ぎ、布を織って作品にしたり、藍を育てて藍染めをしたり、蚕を育てたり、草木染めをしたり。さまざまな手仕事に挑戦する中で、自分に向いていることに気付くことにもなったそうだ。
裕子さんが「織物をしてみたい」と話すと、参加者の一人が「うちに埃をかぶっている織り機がある」と譲ってくれた。

「これに興味があると言うと、そのことならあの人と話してみれば、と紹介してもらえるんです。ここでは都会よりも人とつながりやすいと思います」

譲ってもらった織り機は今、HUB GUJOの隅に置いてある。人のつながりによってここにたどり着き、糸を織って布を作り出す。さまざまな人をつないで新しいものをつくりだす、HUB GUJOを体現しているようにも見える。

裕子さんは自分の出会った魅力的な郡上を、HUB GUJOでさらに魅力的にすることを考えている。

「地元の方とのコミュニケーションはまだ少なく、貢献したいと一方的にこちらが言っている状態です。また地元の方にとっては、コワーキングスペースというのは何をしているところなのかわかりづらいようです。でも「こういう働き方もあるんだ」と思ってほしいんです」

HUB GUJOで働く人には、都会の仕事を請け負いながら郡上で働く人もいる。また都会で身につけたスキルを生かして、郡上で新しい仕事を生み出したり、地域課題を解決する仕事を見つけたりしている人もいる。地元の人からもこのような働き方をする人が増えてほしいと裕子さんは話す。

特に期待しているのは子育て世代の親たち、そして子どもたちだ。

「郡上には大学がないので、毎年300〜400人が進学のために郡上を離れます。その子たちが、地元が好きだけど帰ってこられない、というのではなく、帰ってこられるようにしたい。戻ってこないといけない、ではなく、戻りたい、いつか戻ってくるために勉強してこようと思ってもらいたいです」

郡上はもはや、面白い人がいる、にとどまらない。
豊かな自然を背景に、美しいまちなみを舞台にして、まちに面白い人が浸透して、広がっている。それが見てわかるレベル、ふらっと来た人が感じられるレベルにまで達している。

郡上八幡のまちは面白い。郡上は面白いことになっている。
そして、HUB GUJOが今蒔いている種が芽生え、移住者に加えて地域の人たちの中からも、新しい形で自分たちの思いを形にする人が増えれば。
郡上はもっと面白くなる余地を残しているのだ。

HUB GUJO
岐阜県郡上市八幡町小野91番地1

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