それもまた大事なことだよ、と藤本さんは言った。
日時:2020年1月17日(金)19:30~21:00
会場:KAKAMIGAHARA STAND(岐阜県各務原市那加雲雀町10-4)
参加費:¥1000 + 1drink order
ゲスト:藤本智士(編集者、有限会社りす代表)
主催・モデレーター:オゼキカナコ(ライフスタイルショップ「長月」オーナー、一般社団法人かかみがはら暮らし委員会理事)
カメラマンさんやライターさんなどの座組を、最初は目に見えるところで決めがちである。それはそれで幸せな世界だけれど、次のフェーズとしては、できたらあの人にやってもらえたら嬉しい、という人に頼んでみるべき。特にローカルなところでは、はなから無理だと思いがちだけれど、そうじゃない。たがを外す、無理だと思っている枠組みを外すことが大事だ、と藤本さんは話していた。
普段からどうしても、できそうな範囲でまとめようとしてしまう私を刺してくる言葉だった。それで最後に、勇気を出して著書にサインをしてもらう列に並び、もっと大きく考えなければと思いました、とお話ししたのだ。
藤本さんは私の名刺を見て、ばりばりやってるんだね、とおっしゃった。どうしても、編集長にどう言われるかと考えてしまいます、と言った私に、藤本さんが言ってくださったのが冒頭の言葉だった。
なるほど、と唸る思いだった。もう少し考えてみます、とお礼を言った。
確かに、経験を積めば、「できそうな範囲」も広がっていくかもしれない。広いことと、現実的なことと両方考えておけば、いつかは広い方のことも実現できるようになるかもしれない。
簡単に、こうじゃないとだめ、と一つに決めない、排除しない人なのだと思った。
自分は「すぐ言う役」だとおっしゃっていた。何か問題があったとき、どうするかすぐ決めると。
でもその周りには、こういう場合はこうなります、とリサーチをする人もいる。「そういう人もいいんですよ、優秀なんです」と藤本さんは言葉を挟んでいた。チームの役割分担、ということでもあるのだろう。編集者の役割としては、すぐ決める人であるべきなのかもしれないが、全員がそうでなければならないわけではないのだ。
編集者のはずなのにすぐ決めるのが得意ではない私は少しほっとしてしまった。今は苦手でも、リサーチの経験を積んで、いつかすぐ言う役もできるようになれれば。
いい人だと思った。優しい人だと思った。ビジネスの世界で生きている、という感じの人とはちょっと違う。秋田県のフリーマガジン「のんびり」で、地元の方に協力していただく、しかもアポなしで、というのを実現できるのは、こういうお人柄があるからなのだろう。
胆力、の扱い方。
自分だったらどういう風にお話を聞くだろう、とも思った。
藤本さんは「のんびり」で、アポを取らないで取材をしていたお話をしていた。「自分のコントロールじゃないことをいかに信じるか。胆力が必要。組織だとリスキーなことができない部分もあるけれど、自分でやっていることなら。決めすぎないで遊びの部分をたくさん残しておく。自分の範疇でやってしまうと小さく収まってしまう。どんな風にやってくれるか未知だけど、任せる」と。
これもまた、自分はびびりだなあ、自分のコントロールじゃないことを信じる胆力がないなあ。。。と痛い言葉だった。トークイベント、またはインタビューだとしても多分、自分の中で考えて考えて、それを相手に見せてからスタートするだろう。
簡単に排除しない藤本さんだからこそ、取材中に起こったことを、それもまたあり、と広く受け止めて、その状況を生かして面白くできるのだろう。
ただ、事前に考えておくことも多分、悪いことではないのだろうと思う。何より考えておくべきだろうと思ったのは、藤本さんのお話にも出てきた「ビジョン」だ。そのことによってどんな世界を実現させたいのか。それを考えてあるから、アポなし取材でとっさのときにジャッジができるのだろう。藤本さんの著書『魔法をかける編集』では、特集テーマも事前に決めて取材に行くと書いてある。
計画を立てるのも悪いことではないのではないかと思った。ただ、その通りにしようとしなくてもいいのだ。それなら計画を立てる意味がないと思う人もいて当然だけれど、びびりなら心の安定のために一応つくっておけばいい。これは自分がインタビューをするときにもままあることだ。
もしかしたら、チームで取材をして計画を共有していると、計画を崩すことに抵抗を覚える人が出てくるから、藤本さんは最初から計画を立てないのかもしれない。
事前に対象について調べておくことも、それを絶対すべきというわけでもないけれど、絶対やっちゃだめというわけでもない、という気がした。
でも、もっと胆力があったら、もっと自由にもっと広い取材ができるような気がする。今は、組織じゃなくて自分でやっていることでも、リスキーなことを避けている気がする。
魔法使いとしての成長をめざして。
他にも印象に残る話がいくつもあった。
地域デザインと地域編集。藤本さんは、デザインは「めちゃめちゃ優秀な職人」という感じだとおっしゃっていた。つまりは、自分の持ち分のところについて、自分の持つ技術を使って、素晴らしいものを納める、という感じだろうか。
じゃあ編集はどうなのか、ということについてはっきり言及してはいなかったけれど、「マイク1本でできる」とお話しされていた。つまり専門的な技術が必要なものではない。そして、受け持ちの部分だけじゃなくて全部を引き受けている、という感じだろうか。
確かに、私も編集者の端くれとしては、全部を引き受けられる人になれたらいいなと思う。
水筒を特集した本「すいとう帖」から始まり、タイガー魔法瓶との出会いから12年かかって「&bottle」という商品が発売されたお話。思い続けること、やり続けることの力。
そして、木版画家の池田修三さんのお話。「のんびり」での特集から、秋田県やにかほ市の人の誇りの一つになった。そのお話と写真で、「編集」の力をまざまざと見せてくださった。
普段、紙媒体の編集をしている身として、こんなことができたら、と思う。
やっぱり自分が紙媒体やブログというメディアの編集をしているから、より参考になった部分もあった気がする。ただおそらくそういう仕事の人は会場では少数派だったはずだ。
しかし周りの人も楽しんでいらっしゃったみたいで、サインで前に並んでいた方も喜んでいらっしゃったりしたので。
「のんびり」との出会いは2012年の10月ごろだったと思う。当時柳ヶ瀬商店街のアーケードの中にあった「アラスカ文具店」のレジ前に置いてあった。確かシールを買って、レジで包んでいただくのを待つ間に見つけて、思わず手に取ってしまった。そうしたら店員さんが「どうぞ」と言ってくださって、とても嬉しくてお礼を言って持ち帰った。
持って帰って読んで衝撃を受けた。それが第1号だということは覚えていなかったけれど、一昨年に『風と土の秋田』を読んで「寒天博覧会」の号だったことをはっきり思い出した。5月1日の夜に寒天博覧会をやろうと決め、5月3日に開催する。自分がこの担当だったら、と想像すると、会場は取れるのか、寒天が集まるのか、と震え上がるような恐ろしさを感じた。しかし読み進めると、最後には17種類、つまり17人の方々からの寒天が集まっていた。すごい取材の進め方をして、最後にはちゃんと形になっている。すごい、すごい、と思った。d design travelにもあった、その土地の人じゃない視点の重要性も改めて感じた。
私はこの年とその前の年に、市の秋冬パンフレットの担当をしていた。編集担当というか、メイン担当が一人しかいなかったので、企画から契約書類事務からアポ取り、撮影のアテンド、一部の撮影、執筆、校正など何でもやっていた。今では女性をメインターゲットにした自治体の冊子は珍しくないけれど、それまでうちの市にはなく、いい冊子にしたいと必死だった。
その2冊目が出たところだったから、自治体の出している冊子でこんなに面白いものがある、と大きな刺激を受けた。今思えばとてもおこがましいけれど。。。
そのときもらった第1号は退職のごたごたで今は手元にないけれど、その後「MITONOMACHI BOOK STREET」で第9号に出会いました。
そして時は下って2018年、私は仕事で秋田県五城目町に取材に行った。朝市に行き、その通りの一番奥にある「五城目朝市ふれあい館」に、トイレを借りようと入ったとき。配布物などの置いてある机に「のんびり」が積まれているのに気付いた。16号すべて、「閲覧用 持ち出し禁止」と書かれて。元はフリーマガジンなのに。驚いた。終刊して2年以上経つのに、今も「のんびり」は秋田の人たちに大切にされているんだ、と衝撃だった。
そんな思い出のある藤本智士さんに、『魔法をかける編集』出版ツアーには行けなかったのに、今になってお会いできたのは幸運だった。
自分はまだまだ編集者としては駆け出しだな、と、改めて思わされた。
藤本さんの言葉といただいたサインを励みに、まだまだここから、魔法使いを目指して。
この日、いつかインタビューさせていただきたいと思った方に話しかけてみた。大きいことを考える、への、小さな小さな一歩。