学生のドイツ留学費用をクラウドファンディングで。ドイツでスポーツスクール等を営む増嶋義己さんが、個人でプロジェクトの旗を振る理由。

あなたは学生時代、海外へ行った経験はあるだろうか。旅行はもちろん、短期・長期の留学、そしてインターンシップやボランティアなどに参加した人も少なくないだろう。
しかし今の学生は、コロナ禍によりその全てが叶いにくい状況にある。

さらに昨年来、留学生を支える奨学金や補助金の支払いが中止されたり、留学の制度そのものが停止になったりしているのをご存知だろうか。

今回ご紹介するのは、そんな状況下で資金がネックとなって留学に行けない学生たちを支援すべく、クラウドファンディングで費用を集め、ドイツで1か月間のインターンシップを行うプロジェクトだ。
発起人は、ドイツ・フランクフルトを拠点にスポーツマネージメント、観光、大学との提携等によるインターンシップ提供の事業を行うグループ会社「KM Group」を営む増嶋義己さん。会社でもインターンシッププログラムを扱うが、このプロジェクトは増嶋さんが個人で行っている。


フランクフルトのシンボル、レーマー広場

人のつながりで学生を支援

2020年3月、増嶋さんは一人の学生をフランクフルトの空港へ送っていた。日本から留学してきていた学生だが、コロナ禍で奨学金がストップして家賃などが払えないため、志半ばで帰国せざるを得なくなったのだ。「 ”無念” という感じで、とても悔しそうでした」と増嶋さんは話す。

調べてみると、こうした状況はあちこちで起こっていた。企業からの奨学金が業績悪化によって打ち切られる、大学のカリキュラムに交換留学があったがZoomでの授業参加に変わるなど、金銭的にも制度的にも、学生の留学への道が閉ざされていたのだ。

今大学2年生の子が留学に行きたいと思っていても、今年の4月からは3年生になってしまう。どんどん時間が経ってしまいます。
コロナ禍で遮断されたものはとても多いですが、この一年でつながれた部分も大きいと思うんです。そのつながりを使って、誰かが旗を振って何かやるところに、人も支援金も集まる。そうすれば、一人では動くのが難しい大学生も参加することができます。それを応援しようという大人が増えてきたら、個人のつながりでも留学が実現できるのではないかと思ったのです。

2020年9月、増嶋さんはTwitterで、留学に興味のある学生へ向けて今回のプロジェクトの説明会の開催を告知した。そして手をあげた12人に、クラウドファンディングで資金を集めてドイツに短期留学をするプロジェクトの説明会を、オンラインで行った。そして応募者の中から、書類による一次審査とオンライン面接による二次審査で選考を行い、4人を選んだ。

留学時期は2021年8月を予定する。クラウドファンディングは「SILKHAT」のプラットフォームを使い、2月11日にスタートした。

海外で学ぶことを夢見る大学生を支援したい(SILKHATプロジェクトページ)

期間は3月15日までの約1か月間。留学にかかる費用、一人当たり約30万円のうち20万円を支援できるようにと考え、手数料を含めて目標金額を100万円と設定した。目標額に達した場合のみ支援金を受け取ることのできる、All-or-Nothing方式を取っている。

このプロジェクトに参加している学生は次のような4人だ。
・アスレチックトレーナーとして海外で将来働くことを目標にする学生
・海外での子どもの教育について学ぶ学生
・観光業を現地で学びたい学生
・海外での宗教学について学びたい学生

大学1年生が3人、4年生(2021年4月から大学院進学予定)が1人。居住地は青森、茨城、大阪、長崎とばらばらだ。増嶋さんが表に立ってプロジェクトを発信しているが、4人の学生もそれぞれ、人と会ってプロジェクトの話をしたり、SNSを使ったり、メディアにアプローチしてラジオで発信したりしている。


学生たちによるインスタグラム

その成果により、これまでの支援者には、メンバーが話をしたことのある人が多いそうだ。

今回のプロジェクトでの留学は、誰かの気持ちや責任を背負うことだと分かった上で参加してもらっています。支援が集まってくると、嬉しい気持ちもあれば、背中がしゃきっとする気持ちも出てきます。

クラウドファンディングは、誰がいつ、いくら支援しているか、どんな発信をすると数字に現れるのかなど、全て可視化されるものです。一喜一憂が毎日ありますし、結果がでない焦りや、応援されることの喜び、みんなで進める難しさも学ぶことができています。私も学生の姿勢から学ぶことも多くありましたし、良いチームとして一緒にゴールに向かっている気持ちです。

プロジェクトが始まってから、みんな日に日に応援されることの意味を理解していて、感謝の気持ちを明確にもち、そして挑戦を楽しむことも忘れないようにしながら、メンバー同士声を掛け合い、助け合いながら進めています。そうしたことにより、顔つきや表情もひとまわりもふたまわりも成長して、頼もしく変わってきたと思います。

最高の指導は「環境を与えること」

個人でこのプロジェクトを立ち上げた増嶋さんは、どんな人なのだろうか。

増嶋さん自身も、最初は留学生としてドイツにやってきた。小学生のころからずっとサッカーに打ち込んでいた増嶋さん。日本の大学の体育学部で学んでいたとき、スポーツ指導論の授業で、水球の日本代表監督である教授から聞いた話が、増嶋さんに大きな影響を与えることになった。

日本代表の選手たちがヨーロッパのある国でプールを借りて練習をしていた時、時間になると入れ替わりで現地のチームの人たちが入ってきたそうなんです。
その時に「もし時間があれば、私たちが連れてきた選手たちと一緒に練習をしてもらえませんか」と言うことができていたなら、現地の言葉が話せて勇気が出せていたなら、現地の人と交流させるという最高の指導をすることができたのに、と後悔していると、先生が話していたんです。

それまで僕は、指導者を目指して、練習や指導の内容ばかりに目が行っていました。でも、環境を与えることが最高の指導になると聞いて、びびびっときたんです。現地の言葉を使うことができれば、指導の幅、できることの幅が広がるのです。

増嶋さんは日本の有名なスポーツ監督の経歴を調べ、ドイツのケルン国立体育大学の出身者が多いことに気が付く。そこで勉強したいという思いが湧いた。さらに、ドイツはサッカーのワールドカップ開催を控えており、それに関連した仕事ができるかもしれないという思いもあった。
2006年、増嶋さんは大学卒業後すぐにドイツに留学。その後は現地の企業に勤め、6年前に今の会社を立ち上げた。

現在、増嶋さんの会社は三つの事業を営むが、最初に始めたのは日本人やハーフの子を対象としたスポーツスクールだ。フランクフルトには約4000人の日本人が住む。しかし当時、日本語で指導するスポーツスクールはなかった。このスクールは「環境を与えることが最高の指導」という、学生時代の思いを一つの形にしたものだとも言える。

現地のクラブでは、お母さんがドイツ語や英語を話せないと、日本人の子どもが入っても練習時間の調整などができず、うまく馴染めないことがありました。
また、ハーフの子どもが日本語を勉強したくても、なかなかそういう場がありませんでした。サッカーや体操などスポーツがあると、先生からも日本語で指導してもらえるし、子ども同士で遊びながら自然と日本人の友達ができたりもする。日本語を学ぶ環境ができてきました。

こういうことは何年か続けないと文化になっていかないと思うのですが、少しずつそれができあがってきているのが、私たちのやりがいですね。

現在はフランクフルトに加え、ベルギー・ブリュッセルでもスポーツスクールを運営している。


フランクフルトのまちなみ

会社の三つの事業の一つ、インターンシップ事業を始めたきっかけは、海外で学ぶ場の提供であった。その中で同時に他事業でも良い影響を与えることができると、考えたのがスクールでの人材不足解消だ。日本語で指導できるコーチがいても、一定期間で日本へ帰国することが多かった。

ドイツには、アマチュアやセミプロのチームにサッカー留学をしている日本人の若者もいた。彼らの中には、週3回ほどの夕方のチーム練習と週末の試合に参加するだけで、後は家にこもってばかりの人もいたという。
それなら、平日の午前中は語学学校に通い、午後はインターンとしてビジネスの現場を知って、スクールのコーチもしてもらえばいいのではないかと、プログラムを組むようになったのがインターンシップ事業の始まりだった。

競技としてスポーツに取り組んだ後の人生にも繋がるように、指導をする側に立つことや運営や経営に若いうちから携わることは大事だと考え、今では事業に関する観光業について学ぶ学生や、スポーツに関する幼児教育を学ぶ学生など、現場に立つことやマーケティングについても学ぶことができる場の提供を行っている。
こうしたことも、学生に「環境を与えること」の一つだと言えるだろう。

日本の大学との提携も行っており、兵庫県の関西学院大学などでは、KM Groupでのインターンシップによって単位がもらえたり、大学から費用の補助が出たりする制度が整っている。こうして、1か月ほどの短期から半年、1年という長期まで、多くの学生を受け入れてきた。

フランクフルト国際空港

日本人向けの海外インターンシップは、アジアやオーストラリアなどでのプログラムが多く提供されているのが、ドイツは少ない。増嶋さんはドイツでのインターンシップの魅力として「治安がいいこと」「ヨーロッパの中でも経済の先進国で学べること」などを挙げる。

今回のプロジェクトも、学生に「環境を与えること」だと言えるだろう。ただこのプロジェクトは会社外で、増嶋さんが個人で行っているものだ。

人を巻き込んで、元気を届ける

増嶋さんがこのプロジェクトで実現したいことは、目標額の支援を集めて、4人の留学を実現させることだけではない。

私を含め、プロジェクトを見ている人たちにとっても、コロナ禍でできなくなったこと、下を向くことが多かった一年だと思います。そんななかで「インターネットのつながりだけど世の中捨てたもんじゃないな」などと、元気をもらったと思ってくださる人が一人でもいたら、プロジェクトをやってよかったと思います。

今の状況で「チャレンジしようよ」と呼びかけるのは難しいし、自分のような歳になって親になると、新しいことにチャレンジすることは難しい。でも、誰かがチャレンジしていることを共有したり、応援したりさせてもらうだけでも、僕は元気が出るんです。
これまで支援してくださった方からも「応援しているよ」「行ってこい、留学」「頑張っているのを見ているだけでこっちも頑張れるよ」などとコメントをいただいています。

いろいろな人を巻き込んだり発信したりする中で、学生たちは悩むことも失敗することもある。それでも、みんなで見守りながら発信していくのが大事なのではないかと計画したプロジェクトなのです。

増嶋さん自身も、学生たちの姿から元気をもらっているのだろうか。

胃がきりきりしますよ(笑)。 9月ごろから、会社の仕事が終わった後、クラウドファンディングの文章を書いたり、集客方法や人を巻き込む方法を考えたりしてきました。丁寧に設計しても、「素晴らしいプロジェクトだね」と応援してくださる方もいれば、「偽善者ですか」「留学のお金って自分で稼ぐものじゃないんですか」「こんなコロナの時期に何やってんですか」という声が届くこともあります。でも、そういう意見も一回飲み込んで、納得してもらえるように思いを話す。説明すれば、最終的には応援してもらえています。

自分は何もせず静かにしていればいいことかもしれない。でもやはり僕は、3兄弟の長男ということもあってか、お節介というか、人のために何かすることがあまり嫌いじゃないんです。それに僕自身、留学していろいろな方に出会い、留学してよかったなと思うことがたくさんあります。

僕がいろいろ経験してきたこと、今こちらでできることを、日本人やこれから育っていく大学生のために使いたいですね。そういう部分で自分が先頭に立つことで、学生たちがのびのびと勉強できればいい。そうすれば、その子たちが大人になった時には、次の世代のために何かしようという気持ちになるのではないかと思います。

このインタビューの2日後、支援が目標金額に達し、プロジェクトは成立した。増嶋さんも学生の皆さんも、ほっとしたり喜んだりしていることだろう。3月15日までは、引き続き支援を受け付けている。

気さくに爽やかに話してくださった増嶋さんだが、その内容はとても頼もしい。「環境を与えることが最高の指導」という学生時代の思いを貫き、異国で会社経営をするというのは、こういう人柄があってこそなのではないかと思った。そして、学生たちにとっても頼り甲斐のある存在なのだろうと、容易に想像できた。

人のために何かするということ。次世代のために、自分の経験やできることなどを提供すること。増嶋さんだけでなく、あなたにもできることが何かあるはずだ。すぐに思いつかないなら、まずは今回のプロジェクトを支援して、元気をもらうことから始めてみてはどうだろうか。

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海外で学ぶことを夢見る大学生を支援したい(SILKHATプロジェクトページ、受付は2021年3月15日まで)
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