岐阜市文化センター・市民会館を拠点に活動する、岐阜市民ジャズビッグバンド 楽市JAZZ楽団が新メンバーを募集している。
楽市JAZZ楽団メンバー募集始まります!!ジャズ・ポップス音楽に興味のある中学生・高校生も大歓迎です。(岐阜市文化センター)
楽市JAZZ楽団のさまざまな魅力のうち、今まであまり書いたことのなかったことを書いてみようと思う。
たくさんのアマチュアビッグバンドの中で、楽市JAZZ楽団ならではという魅力は、一流のプロミュージシャンの方々から演奏技術が学べることだけではない。
私は楽市JAZZ楽団に在籍していた12年間、音楽総監督であるサックス奏者・野々田万照先生の背中を間近でずっと見てきた。そこで学んだことは音楽活動だけでなく、社会人として生きていく上でも役に立つように感じている。
熱帯JAZZ楽団、高橋真梨子ヘンリーバンドなど、長年に渡って全国区で活躍を続ける万照先生。全くもって、一流のプロミュージシャンというのは、行いの一つ一つが一流なのだ。プロミュージシャンを目指していなくても、楽市JAZZ楽団に加入する意味は大いにあると思う。
私が学んだことのいくつかを書いてみようと思う。
楽市JAZZ楽団、野々田万照先生のプロフィールはこちらから。
2021年1月の第13回ぎふジャズフェスティバルの動画。サムネイル右側が野々田万照先生
◆いつも、お客さんからどう見えているか考える
例えばライブの本番前には、万照先生から次のようなご指導を受けてきた。
・ステージでは小ぎれいな服を着る
・舞台上で走らない
・ソロが終わったらしっかりお辞儀をする
・演奏が終わったらステージを降りるなど、段取りのあるときはだらだらしない
初心者はどうしても、自分がいかに上手に演奏するか、ということばかり考えてしまいがちだ。しかし、お客さんからどう見えるか、ということを意識すると、演奏技術は同じでも、お客さんへの届き方が変わるのだと思う。
仕事でも、行き詰まったとき、お客さんからどう見えるか、と考えるようになった。私の場合、放っておくと、自分は何をやったかということばかり考えてしまいがちだ。しかしこのように視線を変えると、改善ポイントに気付きやすい気がする。
当たり前のことかもしれないが、私の場合、客観的に見ることができていない自分に気付いて、はっとすることが結構ある。
リハーサルで万照先生はステージを降り、客席に座り、お客さんの位置からステージの隅々まで見て指示を出す。自分を客観的に見ようとするとき、あの姿をイメージするとやりやすい気がする。
長年高橋真梨子さんのツアーに参加し、日本のエンターテイメントの最前線を走ってきた万照先生だからこそ、気付くことがたくさんあるのだと思う。
ちなみに、本番の時もずっとお客さんのことを考えているわけではない。衣装は着てしまえばいい。あとは「走らない、歩く」とか「お辞儀をする」とか、具体的な動きだけを考えればいい。だから、曲中にお客さんの目が気になって緊張して吹けない、とはならない。
第13回ぎふジャズフェスティバル(2021年1月)
◆無用な拘束をしない
例えばリズム隊だけが参加する曲があれば、リハーサルでは管楽器の入る曲を先にやって、次の集合時間を確認してから、管楽器メンバーを先に解散させる。たとえ相手がスペシャルゲストでも、バンドの大人数のメンバーを延々とただ待機させるようなことはしない。
もちろん、本番がうまくいくようなリハーサルをすることが大事だ。でも、それをしながら周りの人にも気を配れる人がかっこいい、自分もそうなりたい、と思うようになった。配慮してもらうと、嬉しい記憶が残る。
仕事で、例えばデザイナーさんからデザインの修正を受け取ったとき、「これで上司に確認しますが今日は上司が社に戻らないので明日また連絡します」などと伝えたりする。デザイナーさんが再修正に備えて無用に待機しなくて済むように、と考えられるようになった。万照先生を見てきたおかげで、それを過度な負担を感じることなくできるようになった気がする。
◆練習やリハーサルのとき、曲が一通りできたら「できた!」と言う。
ライブでお客さんに聞かせることができる、バンドのレパートリーに数えることができる、というレベルを指している言葉なのだろうと思う。
もちろん完璧というわけではなく、もっと高いレベルの演奏が存在する。でも、言われると心が軽くなる。
個人としての課題が残っていることはわかるので、もうこの曲は練習しなくて大丈夫、という気にはならない。それぞれによりよい演奏を目指す意識があれば、この言葉は余計な不安を取り去る方にだけ働き、気が緩んでマイナスの効果を引き起こすことにはならないのだ。
自分もデザイナーさんだったりカメラマンさんだったり他の人とのやり取りの中で「オッケーです!完璧です!ばっちり!」とか言うことがある。自分が言ってみると、責任の必要な言葉だと感じる。見逃しているミスがないか、言いながら少々不安になるときもあるほどだ。
バンドでは、万照先生が責任を引き受けてくださっているから、私たちは心を軽くできている。自分もそんな風に、相手の心を少しでも軽くできたらいいなと思う。
◆厳しく、その後にユーモアを
楽市JAZZ楽団の練習は厳しい。プロじゃないからと言って、なあなあで終わることはない。合奏練習ではできるまで何度も繰り返し、それでもうまくいかないところは「(次までに)練習しといて」と万照先生の一言。空気がぴりっと引き締まる。
それが一段落して次の箇所に移った後で、万照先生は話にユーモアを混ぜる。メンバーを(傷つけない形で)いじったり、万照先生の他のお仕事の話が出たり。だから、練習の最後には明るい雰囲気になっている。
自分で場の空気をつくるのが苦手な私だけれど、こんなことができるようになったらいいなと思う。
2020年度の楽市JAZZ楽団の練習の様子。中央が野々田万照先生。感染症対策のため、メンバー間の距離を取り、管楽器奏者一人一人の前にビニールカーテンを設置している。
◆本番でやることは、リハーサルで一通り全部やる
ジャズフェスなら前日、他のライブなら当日にリハーサルをしてみて、例えばソロの部分でギタリストが前に出てきたほうがかっこいい、となれば、リハーサルのうちに一度やってみる。そうするとケーブルが引っかかったり、前へ出ていく通路が狭すぎたりする。それを直してから本番を迎える。
お客さんからは、本番で盛り上がってノリでやってみた、みたいに見えるところも、実は事前にやってみていることが多い。
それは恥ずかしいことでも面倒なことでもない。本番でケーブルが引っかかったり狭くて出てこられなかったりすると、お客さんの「かっこいい!」という盛り上がりは削がれてしまう。
メンバーがプロではなく慣れていないからやる部分もあるかもしれない。ただ、ジャズフェスなどでスペシャルゲストのリハーサルを見学させていただいた時にも、本番でいつもと違う動きがありそうなところを、事前にやって確かめているのを何度か見た。
リハーサルで本番みたいにやるのは恥ずかしい、と思う人もいるかもしれない。しかしジャズフェスなどでリハーサルから見ていると、プロはもちろん市民でも、本番ではリハーサル以上の演奏をしている。
そういえば自分は、取材の準備を結構念入りにするタイプだ。現場での感覚を大切にしようと、準備しすぎないようにする人もいる。でも私は楽市での経験で、本番は準備を超えてくることがわかっているから、準備をすることが怖くなくなったのかもしれない。
ただ、音楽でも仕事でも、時間やエネルギーには限りがあるので、全てを事前に確認するのは難しい。どこまでは事前に練習(準備)が必要で、どこからは本番の流れでできるのかというのは、経験を積むことでわかってきたり、練習なしでできる幅が少しずつ広がったりするのだろう。
◆移住、複業
万照先生は20年以上前に東京から岐阜にUターン移住された。時代の何歩も先を行っていると思う。その後、2017年からまた東京に拠点を移したが、昨年再び岐阜に拠点を戻した。この数年の、一部での「移住ブーム」で首都圏から地方へ移住した人たちの中からも、子育てを終える頃に一度首都圏に戻る人が頻出するのではないかと密かに思っている。
そして万照先生は岐阜にUターンしたころから漁業権を持って漁師をしていたし、10年くらい前からカレーの出張営業をしていた。複業に関しても時代の何歩も先を行っていると思う。
仕事でコロナ禍の影響を大きく受けていることを、YouTube「mantell channel」などでも公開している万照先生だが、岐阜でカレーを販売したり、岐阜のミュージシャンの皆様と万全の対策を行いながらライブをしたりされている。
2021年3月に行われた「万☆照リサイタル〜JAZZと昭和歌謡〜」。
一昨年度に岐阜県芸術文化奨励を受賞され、昨年度は県主催のライブに呼ばれたりもしていた。
岐阜での活動をたくさんの方が応援するのは、今まで万照先生が、無償とか格安で岐阜の音楽文化発展、地域活性に貢献されてきたからでもあるのだろうと思う。
そういう万照先生の生き方からも、学ぶことは多い。いつかそういう視点からインタビューさせていただけたらいいなあ。
今は楽市に所属していない私でも学べるのだが、楽市にいるとお話しする機会もあるし、練習の合間にオフレコのお話も聞けたりする。目の前で聞くと、より深く響くだろう。
多分他のメンバーの皆様は、私とは違うところを見て、また違うことを学んでいるのだろうと思う。そういう他のメンバーの皆様から学ぶこともあるし、スタッフの皆様の動きから学ぶこともある。
楽市JAZZ楽団のメンバー募集、「自分にできるのだろうか」などと応募を迷う人がいたら、是非応募してみて、と伝えたい。最初から全部できなくてもいい。楽市は自分が成長できる機会なのだ。音楽面で成長したい人はもちろん、生き方に迷ったり行き詰まったりしている人も、きっと楽市で得るものがあるだろうと思う。
とはいえ、オーディションはあるのですが。
感染症対策を念入りに行った上で活動しています。
楽市JAZZ楽団新メンバー募集、応募締め切りは4月29日(木・祝)。忘れないうちにどうぞ。
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岐阜市民ジャズビッグバンド 楽市JAZZ楽団 オーディションの詳細はこちらから。
野々田万照ホームページ YouTube「mantell channel」